水戸家庭裁判所下妻支部 昭和54年(少ハ)1号 決定 1979年5月31日
少年 U・D(昭三四・八・一七生)
主文
少年を昭和五四年一二月三一日まで中等少年院に継続して収容する。
理由
(本件申請の要旨)
一 少年は、昭和五三年三月二日水戸家庭裁判所下妻支部において中等少年院送致の決定を受け、同月六日喜連川少年院に収容され昭和五四年八月一七日で成人となる者であるが、少年は、昭和五四年四月一日付で一級上に進級したが少年院での生活態度は集団生活における他人への配慮に欠ける点や自己中心的な面が窺われ良好とはいえず改善しなければならない点も多く認められ、また保護者の少年に対する指導力に疑問があるため出院後の生活面についても保護司の指導助言が不可欠であると解される状況にあり、成人後もなお継続して矯正教育を行う必要がある。
二 よつて、昭和五四年八月一七日から昭和五五年三月一六日まで七か月間の収容継続を申請する。
(当裁判所の判断)
一 調査及び審判の結果によればつぎの事実が認められる。
(1) 少年は、昭和五三年三月二日当庁において中等少年院送致決定を受け同月六日喜連川少年院に入院し二級下編入、同月一三日予科編入、同年九月一日一級下に進級するも新入生に対する暴行事件により同年一〇月一日二進上に降級となり昭和五四年二月一日一級下に復級、同年四月一日一級上に進級した。その間昭和五三年四月○○○高校通信制二年に編入し勉学に励み同年一〇月二〇日大学入学資格検定試験に合格する等学業面では長足の進歩を示したが、学業を除いた少年院での生活態度は、前記暴行事件(新入生に対し特段の理由もないのに膝や手拳で殴打したもの)や喫煙等により謹慎処分を受けたほか、身辺整理がだらしないこと、集会で居眠りや雑談をするなど生活全般に節度がなく、また、他の院生の規律違反行為に無批判に追従したり、あるいは教官から同じような注意を何度も受ける等今後なお改善を要すべき点が随処に窺われ良好とはいえず、入院前少年鑑判所等で指摘された人に追従的であること、無気力、内省力の不足等の少年が抱えた問題点につき解決の成果が十分あがつたとは認めがたい状況である。
なお、少年院長は昭和五四年四月二日少年について仮退院の申請をしているが仮退院は一級上に進級してからの規律違反(喫煙)により本件審判時においては未定である。(当初の予定は同年六月末ころ)。
(2) 少年と保護者の関係について見るに、母親は幾分改善されたとはいえ少年に対し庇護的で少年の母親依存の傾向も強く、母親の溺愛が少年の自力を妨げる要因の一つとなつていることは否定できず少年と母親との関係につき今後なお一層の調整が必要と認められる。
(3) 仮退院後の進路については、少年は前記のように大学入学資格検定試験に合格したこともあつて、大学進学への意欲を燃やし予備校において勉強し大学入試に備えることと決めており、保護者も少年の進学に積極的である。
二 上記の事実を考慮すると、少年の犯罪的傾向は未だ矯正されていないものと認められるのでなお収容を継続して矯正教育を行う必要があり、その期間は、少年に対する仮退院の申請が既になされていて仮退院の時期もさほど遠くないことや少年は仮退院後の進路につき大学入試のための試験勉強に専念するという明確な目標をもつており、長期間にわたり保護観察に付する必要性に乏しいと解されること等を考慮し、昭和五四年一二月三一日までとすることを相当と認める。
よつて、少年院法一一条四項により主文のとおり決定する。
(裁判官 海老根遼太郎)